経営者が知るべきサイバーリスク - ビジネスを守る最低限の知識

# 経営者が知るべきサイバーリスク - ビジネスを守る最低限の知識

デジタルトランスフォーメーションが進む現代社会において、企業経営者にとってサイバーセキュリティの理解は必須となっています。サイバー攻撃による被害は年々増加し、その手法も巧妙化しています。特に中小企業は「自社は狙われない」という誤った認識から対策が遅れがちですが、実際には攻撃者にとって中小企業は「防御が弱い標的」として狙われやすい存在です。

## 知っておくべき主なサイバーリスク

ランサムウェア攻撃

ランサムウェアは企業データを暗号化し、「身代金」を要求する攻撃です。日本でも多くの企業が被害を受け、業務停止や顧客情報流出などの深刻な影響が出ています。最近では「二重恐喝」と呼ばれる手法も登場し、身代金を支払わなければデータを公開すると脅す手口も増えています。

ビジネスメール詐欺(BEC)

取引先や経営者のメールを装い、銀行口座の変更や緊急送金を促す詐欺です。メールアドレスが似ているだけでも騙されるケースが多く、一度送金してしまうと取り戻すことは非常に困難です。東証一部上場企業でさえ数億円の被害を出した事例もあります。

サプライチェーン攻撃

直接の取引先がセキュリティ対策を講じていても、その先の協力会社が脆弱であれば、そこを突破口として攻撃される可能性があります。自社だけでなく、取引先も含めたセキュリティ対策が求められる時代となっています。

## 経営リスクとしてのサイバーセキュリティ

サイバー攻撃は単なるIT部門の問題ではなく、企業経営に直結する重大リスクです。被害が発生した場合、以下のような多面的な影響があります:

1. **経済的損失**: システム復旧費用、営業停止による損失、賠償金など
2. **信頼の毀損**: 顧客からの信頼低下、取引先からの取引停止
3. **法的責任**: 個人情報保護法違反、株主代表訴訟の可能性
4. **風評被害**: メディア報道によるブランドイメージの低下

実際に、サイバー攻撃後に廃業に追い込まれた中小企業も少なくありません。特に取引先との契約で「情報セキュリティ対策」が求められているケースでは、対策不備による契約違反と見なされるリスクもあります。

## 最低限行うべき対策

1. 経営課題としての認識

セキュリティは「コスト」ではなく「投資」です。経営者自身がリスクを理解し、全社的な取り組みとして位置づけることが重要です。サイバーセキュリティ保険への加入も検討すべきでしょう。

2. 基本的な防御策

- **多要素認証の導入**: IDとパスワードだけでなく、スマートフォンの認証アプリなど複数の認証方法を組み合わせる
- **定期的なバックアップ**: クラウドと物理メディア両方での保管が理想的
- **ソフトウェアの更新**: OSやアプリケーションの最新パッチを適用する
- **セキュリティ研修**: 全従業員に対する定期的な啓発活動

3. インシデント対応計画の策定

攻撃を受けた際の対応手順をあらかじめ文書化しておくことが重要です。誰が判断し、どのように対応するのか、外部への連絡はどうするのかなど、混乱時にも機能する計画を準備しておきましょう。

4. 専門家との連携

セキュリティ専門企業との顧問契約や、地域のセキュリティコミュニティへの参加など、外部の知見を活用することも効果的です。IPAや警察のサイバー犯罪相談窓口などの公的機関も積極的に活用すべきでしょう。

## デジタル時代の経営者の責任

経営者がサイバーリスクを理解し対策を講じることは、現代のビジネスリーダーとしての必須条件となっています。「ITに詳しくないから」という言い訳は通用しません。むしろ、サイバーセキュリティへの投資は、企業の持続可能性を高め、取引先や顧客からの信頼を獲得するための重要な経営判断です。

セキュリティ対策は完璧を目指すのではなく、継続的な改善プロセスとして捉えることが大切です。まずは自社の現状を把握し、優先度の高いリスクから対応していくことから始めましょう。デジタル化が進む時代だからこそ、リスクに目を向け、適切な対策を講じることが企業存続の鍵となっています。

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山下哲央